『ドカパンスーツ』

 今回オーダー事例に登場していただくT様は、私が今まで担当させていただいたお客様の中で唯一、ダブルスーツをご注文くださった方です。
T様はスーツを着なくてOKのお仕事をされているので、今までスーツを着た経験は数える程くらいなんだそうです。でも、さすがのT様も結婚式のお呼ばれにはスーツを着て出席されますので、今回ワールズビスポークにつくりに来てくれたのです。形はあらかじめダブルと決められていましたが、T様が最もこだわったのはパンツの太さでした。T様は、とある事情でタイトなパンツは穿けません。ですが、どれくらい太くしていいものか正直私も悩みました。するとT様が、『ドカパンみたいなイメージでお願いします。前川さんがこれじゃ太すぎるって思うレベルをさらに超えてもらえれば、ちょうどよくなると思います』なるほどー。じゃあ、がっつりやってしまいましょう!ということで、渡り巾を40cm、膝巾を30cmにしちゃいました!ちなみにT様の体ご型からすると32cm、23cmくらいが普通でしょうか。それから、上着のVゾーンは深めをご希望でしたので、釦位置を少し下げました。工場のスタッフのみなさんにはまたも難しいご注文をお願いする事になってしまいました(>_<)

そして、ドカパンスーツ(!?)が出来上がりご試着いただくと、かなり気に入っていただけた様子!(やったね!) そのあと、シルバーのネクタイも買ってくださって、これでもう結婚式の準備は万全ですね!?
T様、どうもありがとうございました!

・・・とまぁ、いつもはここで終わるはずなのですが、実はT様とはちょっとした思い出話があります。簡単に書かせていただくので、みなさん、もし良かったら読んでみてください。
 
お渡し予定日の夕方5時くらいにT様から電話が来ました。
『前川さんですか?Tですけどスーツ明日取りに行きます』
『あれ?今日お見えになるんじゃなかったでしたっけ?というのも明日は定休なんですよ〜』
『マジすか!?あー、どうしよー』
『明日以外は来られない感じですか?』
『そうなんですよー。ずっと仕事でー。しかも式は4月の頭なんですよ』
(T様はかなりハードワークをされていて、休みがほとんどない状態なんです)
『そうですか〜。ちなみに今日って何時にお仕事終わるんですか?』
『9時なんですよー』
『・・・じゃあ、待ってるんで今日来てくださいよ。(言っちゃった!)』
『え?いいんですか??』
『全然いいですよ、明日休みですし(また言っちゃった!!)』
『ありがとうございます』

こんな感じでT様が来るのをずっと待っていたら、9時過ぎに再び電話をくださいました。
『今、終わったんでこれから向かいます』
『わかりました!』

しかし、30分以上経ってもT様はまだお見えになりません。あれー?と思っていると再びT様から電話が…
『前川さん迷いました…』
これには思わず笑ってしまいましたね。
この後、私は口で説明するよりも連れてきたほうが早いと思ったので、とある場所でT様と待ち合わせをして、そこに迎えに行き、お店に戻ってきました。すると、T様が
『もしかして俺だけのために待っててくれたんですか?』
『そうですよ。でも、全然気にしないでください、暇人ですから』
『じゃあ、このあと飯でも食いにいきましょうよ。おごるんで』
『マジですか〜!!』

そして、前述のようにスーツをご試着いただいたのち、
本当に夜ご飯をご馳走してくれたんです。なんて、いい人なんでしょう!しかも見かけによらず(T様、ごめんなさい)、かなり筋の通ったお方で、T様のさりげない発言のひとつひとつが私の胸に少なからず響きました。かと思いきや、チャランポランな発言もされるしで、本当に楽しかったです。
そんなT様の写真は、こちらです!ちょっと恐そうに見えます(!?)が、優しい方です。(靴がスーツ用じゃなかったのが惜しいですね!)

あらためて、T様ありがとうございました!
                   <前川>